一昨日のラグビーの勝利の夜からアイルランドはストーム(嵐)に見舞われ、強風でフライトの欠航が相次ぎました。
太平洋でハリケーンなどが発生すると、その影響を受け、アイルランド、イギリスは雨や強風を伴う悪天候となります。それを「ストーム」といい、数年前より英・愛の気象庁共通で「A」からアルファベット順に名前をつけることになりました。
今回のは「ストーム・キーラ(Storm Ciara)」。例年この時期には「フランク(Frank)」などFあたりまでアルファベットが進んでいたような気がしますが、今年はまだCですから、3つ目のストーム。
キーラはアイルランドの女の子の名前で、私の友人の中にも何人かいますが、「友達」という意味のアイルランド語から派生しているようですね。ストームらしからぬ可愛い名前です。
さて、ストーム・キーラの通過中に土曜日に行われた総選挙の開票が始まり、こちらの方もキーラに負けず大荒れとなりました。事前の予測通り、アイルランド史上初、ナショナリストのシン・フェイン党が大勝利を収めつつあります。
一昨日のブログでもお話ししたとおり、アイルランドの投票システムは「単記移譲式」といい、投票して欲しい順に候補者に順位をつけるシステムなので、ナンバー2以降の集計にとても時間がかかります。そのため、現在もまだ開票が行われていて最終結果は出ていないのですが、ナンバー1の集計では各選挙区でシン・フェイン党の候補者が軒並み当選。
昨日の終わりまでに160議席中40が確定しましたが、うち29席がシン・フェインという驚きの大勝利をあげました。

勝利を宣言するシン・フェイン党のメアリー・ルー・マクドナルド党首(写真は
Sinn Féin declares victory in Irish general election-The Guardianより)
現時点(2月10日20時40分)で160議席中146席が確定していて、ナンバー2以降の集計で2大政党が巻き返し、シン・フェイン37、現政権のフィナ・ゲール32、野党最大のフィナ・フォール31…と拮抗し始めましたが。
連立は必須ですが、シン・フェインに対抗するために、2大政党が手を組むのか。それがダメなら、シン・フェインと連立はしないでしょうから、選挙やり直し?
私も、こんなに注目して総選挙の開票結果を見守ったのは初めてです。(20年住んでも選挙権はないというのに!)
投票日だった一昨日の夜、10名程のアイルランド人の友人たちと日本食レストランで食事をしましたが、選挙の話題が少し出た時に、誰もがシン・フェインの支持率が高いことに信じられない!…といった様子でした。(もしかすると、その時に口をつぐんでいた人は違う考えだったかもしれませんが)
考えてみると私の友人たちはみな大卒で、ダブリンでホワイトカラーの職を得ている人たち。富裕層ってわけではないけれど、一緒にサーフィンして、海外へホリデーに行って、外食にお寿司を食べに行く…ってことが日常的に出来る人たちです。
その中にいるとアイルランドの格差社会に気づきにくく、事態がここまでになっていることを私はわかっていなかったかも…とふと思いました。経済成長後のアイルランドでは、住宅価格の高騰、ホームレスの増加、医療システムのまずさなどが社会問題となり、今日では日常化してしまっています。そのあおりを直接受けているのは低所得者層。
今回のシン・フェイン支持は、そんな不満や、ここ20年で急激に変化したアイルランド社会への反動…でしょうか。
そういえば、
この間の「地球タクシー」に出演してくれたドライバーたちはみな、シン・フェインに票を入れていそうだもの。そう考えると今回の結果が、なるほどとわかる気がします。
英在住の国際ジャーナリスト木村正人氏による、今回の選挙をやはり「台風」と表した非常にわかりやすい本日付けの記事を見つけましたので、ご興味ある方はご一読を。
→
ネオリベに反旗翻すナショナリスト政党がアイルランド総選挙で首位 欧州に新たな台風 二大政党が凋落P.S. ちなみにアイルランドの主要政党はいずれもアイルランド語の名がついていますが、それぞれの意味はご存知でしょうか。どれも、血を流して国家を勝ち取った人たち…って感じ!
シン・フェイン(Sinn Féin) = We Ourselves = 我々自身
フィネ・ゲール(Fine Gael) = Family (Tribe) of the Irish = アイルランド人は家族(ひとつの部族)
フィナ・フォール(Fina Fall) = Soldiers of Destiny = 運命の戦士
- 関連記事
-
コメント
誠司
大変判りやすい記事ありがとうございます。
私の投稿にリンクを張らせていただきました。
アイルランド下院の1選挙区当たりの定数(当選者数)はどれくらいなのでしょうか。
お騒がせしました、その後 3~5名と判明しました.。
2020/02/11 URL 編集
Fiona
に気づいていなかったとは驚きです。ニュースを
御覧になっているんですよね?(ごめんなさい、
本当に驚きました)。
トランプ大統領がその代表のようにいわれていますが、
アメリカではレーガン大統領のときから格差社会が
顕著になりました。日本では小泉政権のころから
でしょうか。
イギリスのケン・ローチ監督の映画はとても素晴らしいですし、今回のアカデミー賞をとったパラサイトも、
もちろん日本の是枝監督の最近の作品もそれらを
描いたものです。
2020/02/11 URL 編集
naokoguide
そういっていただけて嬉しいです。選挙制度や政治のことに特に詳しいわけではなく、自分は見聞きし、理解した範囲のことしか書けないので、不適切な部分があればどうぞご指摘くださいね。
1選挙区当たりの定数についてのご質問もありがとうございます。私も定かでなかったので、今日調べたり、人に聞いたりしていたところでした。お知らせありがとうございます。
今後の連立協議が難航し、2月20日までに新政府が誕生しなければ、再選挙になるようです。これから数日間のニュースが注目されますね。
2020/02/11 URL 編集
naokoguide
こんにちは。コメントありがとうございます。
格差社会に気づいていないとは書いていません。一般論で言えば今も昔も世界中にあることですが、アイルランドの社会においては経済成長後により顕著になりました。ニュースでも日々報じられており、街を歩けばホームレスがたくさんいて、住宅難も常に問題になっています。
ただ、私自身はそのあおりを直接受けている実感はありませんでした。私を含め、私の友人たちはホームレスではないし、おかげさまで健康なので医療制度のお世話になることもほとんどありません。社会の弱者でないため、そして、ニュースとしてあまりに日常的になってしまっているせいもあり、事態がここまで切羽詰まっていることにかえって気づいていなかったのかも…ということを書いています。誤解を与える書き方だったらすみません。
世界的に問題となっていることが、アイルランドでもここまでひどくなっていたのね、と今回の選挙結果であらためて実感した、と言いたかったまでです。
ご指摘ありがとうございます。
ケン・ローチ、是枝監督、どちらも興味深く見ましたが、身近な問題とはとらえていなかったなあ、という感想です。パラサイトはまだ見ていませんがこのバタバタな日々が一段落したらぜひ見に行きたいと思っています!
2020/02/11 URL 編集
誠司
議員内閣制の日本、イギリス、イタリアなどの例があるように、ちゅうぶらりん国会=ハング‐パーラメント(Hung Parliament)になると、解散もできないから、何とか組閣して混乱する事が多い。その点、再選挙の仕組みがあるのは素晴らしいですね。でも、政権を握るのは政治家の悲願だから、キャスティング‐ボート(casting vote)を握る議席数の少ない政党が連立に参加するからと自分たちの無茶と思える政策を呑ませる事が多々あります。そうならない事を祈っています。
2020/02/12 URL 編集
naokoguide
なるほど。政権を取るための政治…になってしまうのがいちばん困りますね。
周囲のアイルランド人は、再選挙かなあ、と言っている人が多いですが、どうなることでしょう。今日、レンスター・ハウス(国会議事堂の前を通ったら、政治家らしき人が報道陣に囲まれてマイクを向けられていました。人が多くて、誰かは見えませんでしたが。
今後の動きに注目ですね。
いろいろ教えてくださり、ありがとうございます!
2020/02/12 URL 編集