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新オープンのアイルランド文学博物館「Moli」

数日前のことですが、先月ダブリンに新しくオープンしたアイルランド文学博物館(Museum of Literature Ireland, Dublin 2)を見に行ってきました。
頭文字を取って、「Moli(モリ)」と呼ぶようです。

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セント・スティーブンス・グリーン(St Stephen Green)南面にある、19世紀のニューマン・ハウス(Newman House)を博物館として公開。ジェイムズ・ジョイスのバナーが出ています

ニューマン・ハウスは、1854年創立のカトリック教徒のための大学校舎だった建物。初代総長、聖ジョン・ヘンリー・ニューマン(Saint John Henry Newman)にちなみ、そう呼ばれています。

当時のダブリンには1592年創立のトリニティー・カレッジ(Trinity College)がすでにありましたが、そちらはプロテスタントの子女を教育するための大学で、カトリック教徒の入学は許されていませんでした。19世紀にカトリック解放の動きが顕著になり、別の大学を…ということで開かれたのがこちら。
現在ダブリン南郊外に広大なキャンパスを構えるUCD(=University College Dublin)の前身となった学校で、1940年代に移転するまで、ここがUCDの本校舎でした。キャンパスはシティセンター各所に点在していて、現ナショナル・コンサート・ホールやガバメント・ビルディングなどもUCDの校舎だったそう。(ニューマン・ハウスは現在もUCD所有)

そんなわけで、この文学博物館の常設展は、UCDの栄えある卒業生であるジェイムズ・ジョイス(James Joyce, 1882 –1941)を主にクローズアップしています。

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入り口を入るとジョイスの顔が

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19世紀の室内装飾が見事。支柱で支えられていない階段がスゴイ

最初の部屋は大学の歴史や変遷の展示。数ある古い写真の中に、UCD在学中の若き日のジェームズ・ジョイスを発見。

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左から2番目がジョイス。ド近眼だったことで知られるジョイスですが、まだこの頃はメガネをかけてない!メガネをしていないジョイスを見たことがなかったので、博物館員の係員さんにどの人がジョイスなのか聞かなくてはなりませんでした

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写真に写っているトネリコの大木は、今も窓の外に見ることが出来ます

次の大きな部屋は特別展で、その時ごとに展示内容が変わるそう。

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今はケイト・オブライエン(Kate O'Brien)というリマリック出身の作家についての展示でした

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裏庭に出てみました。先ほどの写真のトネリコの大木はここにあり、ベンチに座ってくつろげるスペースも。裏から見るニューマン・ハウスの建物も瀟洒なレンガ造りで素敵

上階はジョイスの生涯と、代表作『ユリシーズ(Ulysses)』などに焦点を当てた展示。ジョイス好きにはたまらないでしょう。

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『ユリシーズ』と、ジョイス自身のゆかりの地が記されたダブリン・マップ

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1912年の日付の入った、ジョイスからW.B.イエーツに宛てた貴重な手紙。手紙の中でジョイスは、年上の文豪イエーツに、『ダブリナーズ』の出版に力を貸して欲しいと懇願しています

さらに上階へ進むと、パリの街とアイルランド人作家のコーナー。ジョイスはダブリンを舞台にした作品を書きながらも故郷のダブリンには住まず、ヨーロッパの別の都市に暮らしました。ジョイスも住んだパリの街の景色と、そこに足跡を残したアイルランド人作家たちが写真パネルで展示されています。

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当然、オスカー・ワイルドも登場

そしてハイライトは、『ユリシーズ』初版本の展示。ガラス・ケースの中にうやうやしく置かれていました。

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ジョイスのパトロンであった女性、ハリエット・ジョー・ウィーヴァ―(Harriet Shaw Weaver)より、アイルランド国立図書館に寄贈されたもの。ジョイスの直筆で、初版の日でありジョイス自身の誕生日でもある「1922年2月2日」の日付が記されているそう

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こちらは隣りの展示室にあったジョイスの直筆原稿。上が『ユリシーズ』、下が『フィネガンズ・ウェイク』

そのほか写真は撮りませんでしたが、アイルランドの作家たちの顔写真とプロフィールがオブジェのようにヒラヒラしている部屋や、言葉にこだわった作家たちにちなんでか、英単語が壁一面に映ったり消えたりする部屋などもあり。
ジョイス以外の作家については「現物」はなく、全体的にジョイス博物館…といった印象が強いです。直筆の手紙や原稿は見たことがなかったので、私は感激しました。

地下にはミュージアム・ショップとカフェがあります。博物館内は静かでしたが、カフェは大変なにぎわいでびっくり。

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ロースト・ビーフ入りのウォーターフォード・ブラー(白パン)のサンドイッチを。ゴルゴンゾーラ・チーズ入り、が目に入り、ジョイスにちなんでこれを注文!(『ユリシーズ』に主人公ブルームがゴルゴンゾーラ・チーズのサンドイッチを食べるシーンがあるので♪…ブルームが食べた場所はデイビー・バーンズ(Davy Byrnes)ですが)

館内の階段の上り下り口の壁に、文豪の言葉が記されているのも文学ファンには嬉しい仕掛け。地下にあるトイレに行く階段には、『ユリシーズ』から次の言葉が。

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「ミーティング・オヴ・ザ・ウォーターズ(Meeting of the waters)」と言ったら、『ユリシーズ』を知る人にとってはトイレなのです!(トーマス・ムーア作の詩のタイトル。トリニティー・カレッジ正門脇のムーア像のふもとに、かつて公衆トイレがあったので…笑)

ダブリンの新しい名所。ジョイスが好きなら、ぜひ行ってみてください。

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naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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