アイルランド南東部のウェックスフォード(Wexford)に、先史時代からのアイルランドの歴史をレプリカで再現した野外博物館、アイリッシュ・ナショナル・ヘリテージ・パーク(
Irish National Heritage Park, Co. Wexford)があります。
今週ここへお客様をご案内する予定があるのですが、ずい分前に立ち寄ったきりしばらく行っていなかったので、昨日友人を誘って、下見に出かけてきました。
ダブリンから、ウィックロウの山や緑きらめく牧草地、時おり見えるアイリッシュ海を眺め、スラーニー川に沿った古い町々をぬって走ること、約2時間のドライブ。40エーカー(約16ヘクタール)の広大な森に、歴史を再現した16のサイトが点在しています。
入場口のビジターセンターでもらう案内図を手に、いざ、タイムスリップ!
(この時に思わず、「クルクルバビンチョパペッピポ ヒヤヒヤドキッチョのモーグタン~」…と唱えたくなりましたが、一緒に行った日本人の友人は若い方だったので、口に出すのは遠慮しました・笑。同世代の方にはわかりますよね!あー、なつかしい、まんがはじめて物語・笑)
氷河期が終わり、アイルランドに最初の人類がやってきたのが9000年前。中石器時代、狩猟民族でした。こんなふうにその時代の人々が住んだ住居が再現されています。「ここは紀元前7000年のアイルランドだよ!」 by モグタン(笑)

緑の森を歩きながら、次の時代へ進んでいくのが楽しい
それから3000年が経ち、農耕民族の到来。森を切り開いて作物を作り、牛やヒツジ、豚を家畜を育てるようになります。

住居は円形から長方形に。お隣りにカカシのいる畑もありました

この時代は新石器時代で、巨石古墳がさかんに建造されるようになります。これはアイルランド全土に現在も数百という単位で残る、通称「ドルメン」と呼ばれる柱状古墳(Portal Tomb)
このあと、次の時代へ移る途中に妖精の森がありました。

この先に小さなフェアリー・ドアのある木がいっぱい。お子さん連れのご家族について、私たちもしばしフェアリー探しに…
時代は青銅器時代となり、小型化・多様化した墳墓や、泥炭地で発見されたスコッツ・パインのボグ・オーク(古代の木)などを見ながら、ストーン・サークルへ。

3000~4000年前にさかんにつくられたストーン・サークル。アイルランドでは南部に多く残ります。儀式・祭事の場であり、石は太陽や月の動きなど天文と関連づけられて配置されたようです
この後、ケルトの発明品とされるオガム文字が刻まれた石があり、時代はいっきに中世初期の住居へ。1500~1000年前のリングフォートです。

木の杭を垂直に立てたヘンジ(囲い地)。タラの丘などに残る円形の堀のような地形は、こういうものが建っていた跡なのだ、ということがよく理解できます

囲い地の中には茅葺き住居が3軒あり、住まいや台所などそれぞれ用途が違うようでした

こちらが住まい。一緒にいた友人は白川郷の民家に泊まったことがあるとのこと、「ここにも泊まってみたい~」とテンションが上がっていました(笑)
そろそろキリスト教の息吹が…と思ったら、次に登場したのはやはり初期キリスト教修道院。

アイルランドにおける初期キリスト教はローマ式のヨーロッパ大陸のものとはかなり異なり、「ケルト教会」と呼ばれます。素朴な教会とケルト十字架のハイ・クロス。そう、1200~1000年前にさかんにつくられたハイ・クロスは、今では石の地肌が露出しているものの、当時はカラフルに彩色されていたのでした

教会の周りにある茅葺き住居は聖者(修道士)の住まいや、『ケルズの書』に代表される彩色写本を作成した場所。住まいらしき小屋をのぞいてみると、うなだれた様子の聖者がいてびっくり
この後、水車小屋やFulacht Fiadhと呼ばれる調理用の水をはった溝(熱した石を入れて沸かし、その中で豚肉などをゆでた)を見て、前半終了。ビジターセンター方面へ戻り反対側へ進むと、続きがあります。
ずい分前にここへ初めて来たときに、私がいちばん感激したのがこちら、クラノッグ(Crannog)のレプリカです。

タイムスリップ気分を思いきり味わえる、風情ある眺め。ビジターセンター付属のレストランから眺めることの出来る位置にあります
クラノッグとは湖や川などにつくられた人工の島。スコットランド西部の離島やウェールズにもあったようですが、アイルランドに特に密集しており(特に内陸部、北部、北東部)、推定約1200か所あったとか。石器時代からつい400年ほど前まで、5000年以上もの長きにわたり建設され、使用され続けてきたというから驚きです。
ガイド試験の時に習い、非常に興味をひかれていたので、以前にここへ来た時にレプリカを見て感激したのでした。
ここで再現されているようにクラノッグには住居や金属細工を行う作業場、魚捕り小屋などがあったとされますが、祭事の場として使用されることもあったようです。
建設の理由ははっきりせず、アイルランド史のミステリーのひとつ。古代のアイルランドは森におおわれていて暗かったので、明るい場所に住みたかったから、とか、水源確保と漁のため、とか、防衛上の理由で…など諸説ありますが、考古学者も明言を避けているのです。
私は子供の頃から「離島ファンタジー」があり、島というものに憧れが強いので、そんな島を自分で作っちゃう!という古代人の発想そのものにとても興味がわきます。
さて、時代は進み、ついにバイキング到来。1200年前です。ダブリン、ウォーターフォード、ゴールウェイ、ドネゴールなど、アイルランド沿岸部の主要な町はバイキングにより基礎がつくられました。

バイキング船

小屋の中では鍛冶屋の体験ワークショップが行われていて、観光客らしき親子が挑戦していました
この辺りから、パークに隣接するスラーニー川の河口が見え、広々とした景色を楽しめます。

アイルランド南東部を流れる全長約117㎞のスラーニー川。バイキング船が今にも漕ぎ出しそう

ここから登り坂となり、ゆるゆると美しい流れる川の景色を見晴らすことが出来ます

坂を登りつめると、堅固なノルマン・キャッスル(イギリスからの征服者が建てた城)が目の前に
1169年、ノルマン人到来。イギリス支配の時代が始まりました。そうなんですよね、こういう城も石の地肌が露出した様子で現存しているので忘れがちですが、当時はこのように白く塗られていたのです。
城の内部には、フクロウや、鷹とか鷲とかといった猛禽類がいました。

鷲を手に写真を撮らせてくれます(笑)
そして、16のサイトの最後を飾るのは、アイルランド独自の建造物、ラウンド・タワー(Round Tower)。1000~800年前にキリスト教修道院にさかんに建造され、鐘楼、見張りの塔、宝物庫、避難所、巡礼者への目印…といった様々な用途で使用されました。

このラウンド・タワーは修道院時代のオリジナルではないものの、ヘリテージ・パークの展示用レプリカではなく、1857年にクリミア戦争(1854‐55)に出兵した兵士への慰霊モニュメントとして建てられたもの
16のサイトを網羅し、タイムスリップ体験はここまでです。森の中をよく歩きお腹もすいたので、ビジターセンターへ戻ってランチタイムにすることに。
センター向かいのクラノッグからいい匂いがするなあ、と思ったら、テントを張ってバーベキューをしていました。

匂いに誘われ、3種類のバーガーからソーセージ・バーガーを注文。バーベキューはいつもやっているわけではないようで、昨日が初の試みだったそうです、ラッキー!

注文してからじっくり焼いてくれました。ウォーターフォード・ブラー(Waterford Blaa)という南東部名物の白パンにおいしいソーセージ2本、チーズとルッコラ、オニオンのレリッシュのトッピング。ケチャップとマスタードをかけていただきまーす♪

ウェックスフォード産のクラフトビール、クレバーマン(
Clever Man)もあり

おいしいバーガーを堪能したあとには、ビジターセンターのカフェでデザートを。スティッキータフィープディングと地元産のアイスクリーム
普段、ガイディングの際に断片的にお話ししているアイルランドの歴史を、目で見て実感しながら復習出来て、思った以上に楽しい体験でした。森の中の散歩もステキでした。
数日後、お客様をお連れする際も、楽しんでいただけるといいなと思います。
アイルランド観光というとダブリン周辺、西部、北部、南西部に集中、このヘリテージ・パークのあるウェックスフォードを含む南東部は忘れられがちです。キルケニー、ウォーターフォードまでは大型バスでの観光客もやってきますが、海よりのウェックスフォード周辺にはほとんど来ることがなく、そういった意味では開拓の余地のある穴場スポットかもしれません。
昨日もお天気の良い週末ということで家族連れなどそれなりに人は来ていましたが、昨今の夏のアイルランドの行楽地の混み方といったらすさまじいので、それに比べると静かでのんびりしていて、私が初めて来た20年位前のアイルランドにそれこそタイムスリップしたかのような気がしました。
私自身もまだまだ開拓中ではありますが、
トラモアのラフカディオ・ハーン庭園や、ニューロスのケネディ大統領のご先祖の地、美しいビーチや灯台、庭園など、このエリアの見どころをもっとご紹介していきたいなあとあらためて思いました。
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