今回のクレア・アイランド(Clare Island)への旅で私がいちばん訪ねたかった場所がこちら、
グレース・オマーリー(Grace O'Malley)が永眠すると言われる古い教会。
1224年建立(1460年頃に再建)のシトー会の教会港より3キロ程、
昨日のブログにちらりと登場した島内唯一の(と思われる)小さなお店のすぐ近くにあります。
ちなみにお店の名も「O'Malley」さん。これからグレース・オマーリーのお墓参りに行くの~と言うと、隣りの家が教会の鍵を持っているから開けてもらうといいよ、と教えてくれました。
店と教会の間には民家が一軒、ノックするも誰も出てこない…。
仕方なく外側から教会の写真を撮ったりしていると、犬を連れたおじさんがどこからともなく現れて、大きな閂をまわして教会のドアを開けてくれました。

数年前に修復作業が行われて、全くの廃墟だった西側の部分に屋根が取り付けられたようです。内陣のアーチは、きれいに残っています。

内陣の左側の立派なストーン・ワークが施された一角が
グレース・オマーリーの墓所だとのこと。


墓所の脇にはめ込まれていた
オマーリー家の家紋尻尾がくるりんとしているこの動物、
もしやイノシシ…?何を隠そう「猪突猛進」イノシシ年の私は、ここで何やら運命的なものを感じてしまったのでした。

オマーリー家の家紋。まさに「猪突猛進」ポーズの真っ赤なイノシシが…
内陣の天井には、
中世のフレスコ画が良く残されており、これだけ形がはっきりと残っているものは、国内でも希少価値。


ウルフハウンド、アイリッシュ・ハープがはっきり見えます
グレース・オマーリーの生きた1500年代は、アイルランド全体が伝統的なケルトの社会からイギリス支配下へと移行していく過渡期にありました。
1793年、
当時63歳になっていたグレース・オマーリーは、アイルランドの西海岸にイギリスの手が伸びるの食い止めるべく、時の英国女王エリザベスⅠ世に直談判することを決意します。海賊船が横行する危険な海を渡り、テムズ川をさかのぼってロンドンへ入城、Greenwich城にて女王への謁見を果たしたグレースの、なんとまあ、
見上げた行動力と熱意!この2人のカリスマティックな「女王」同士の対面は、私の興味を掻き立ててやまない歴史の中のお気に入りのひとコマです。
Wikipedeaより
片やコテコテ・ゲーリックの「海賊の女王」と、首にエリマキトカゲ(風の襟飾りのこと)を巻いた「ホンモノの女王」。
全く異なる立場・境遇でありながら、当時の女性としては信じがたいくらいの逸材であり、いずれも数奇な生涯を送ったことでは共通する2人。
歴史の糸に手繰り寄せられて人生を交差させることとなった
2人の女性の対談が、ラテン語で行われたというのもなんとも興味深い話。グレースは英語を話さず、女王はゲール語を話さず。2人の共通語は、ラテン語オンリーだったんですね~。
(ちなみに…この絵のグレース・オマーリーは私のイメージとはちょっと違う。やっぱりスキンヘッドか少なくとも白髪でロングヘア、小柄で細身、顔はしわっぽく日に焼けていて、瞳は抜け目のない輝きを放つ緑。ドルイド調のリネンのドレスにウールのマントを羽織り、タラ・ブローチ型のピンを胸に着けているのが、私のグレース・オマーリー!)
グレースの熱意に感服したのか、もしくは「似たもの同士」を実感して意気投合したのか、この2人の対談は実り多きものとなったようです。2人の間には、
身分を越えた友情らしきものまで芽生えたとも伝えられています。
グレースは海賊行為を自粛することを誓い、その代わりに、残りの生涯を安全にクルー湾域の先祖代々の土地で暮らすことを認められました。
また、彼女の息子は初代メイヨー伯となり、
オマーリー家はイギリス支配下におけるアイルランドの特権階級として生き残っていくこととなるのですが、これもグレースの勇気と行動力、女王にさえ気に入られた魅力的な人柄の賜物と言えるでしょう。
これもまた運命のいたずらか、
2人はその10年後の1603年にそろって天に召されています。その後まもなくゲーリック・アイランドが終焉を迎え、急速にイギリス化していったことを思うと、2人の死は何やら象徴的な意味を持っていたように思えてなりません。(この2人、天国で大親友になっているかも…)
教会内の家紋に記されたオマーリー一族のモットーは、
Terra Mariq Potens意味は
Mighty on Land and Sea=海でも陸でも力強くあれこれぞ、グレース・オマーリーの生き方そのもの!
人は彼女の生き方というより、
その力強い生き様が育てた強くて研ぎ澄まされた「魂」そのものに魅力を感じ、時代を超えて引き付けられるのでしょう。

キャンドルをかたどった教会の窓
- 関連記事
-
コメント
-
ご多忙とは存じますが、よろしければ山下さんの経験や体験を通して得た見解でも構いませんので、ご返答をいただけると幸いです。
2020/02/10 URL 編集
naokoguide
おっしゃるとおり、アイルランドにはカブトエビはいません。ブロスターならいるけれど、違いますよね。
そして、アイルランドは20世紀になるまで統一国家としての体裁を持たなかったので、アイルランド王家というものはありません。イギリス王国みたいなものは、今も昔もないのです。
古代には、日本で言う殿様とか藩主レベルの王家は乱立していました。ですので、その紋章が、例えばマンスター王家とか、アルスター王家の紋章であるとかいうのであれば、調べようがあると思います。どの紋章なのか、ということですね。
それにしても、カブトエビってどんな意味なのかな、と気になりました。時間のあるときに調べてみようと思います。興味深い話題をありがとうございました!
2020/02/10 URL 編集
お返事ありがとうございます
大変なお仕事だとは存じますが、お身体にはご自愛くださいませ。
2020/02/11 URL 編集
naokoguide
興味深い質問をありがとうございました。
2020/02/11 URL 編集