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モーン・テキスタイルズの工房を訪ねる

昨年の秋の日本滞在中、学生時代からの仲良しに「ナオちゃん、このマフラー、アイルランドで買ってきて!」と見せられたファッション誌の小さな写真。
商社のアパレル部門に勤める彼女の目にかなったメイド・イン・アイルランドの品は、モーン・テキスタイルズの品の良いグレイの手織りマフラーでした。日本でもファッションに敏感な人たちの間で、じわじわと人気上昇中…のようです。

おととい北アイルランドへ行ったのは、そのモーン・テキスタイルズ(Mourne Texitles, Co. Down, Northern Ireland)の工房を訪ねるためでした。仕事というのではなく、個人的興味から。
先日、ダブリンの展示会でオーナーのマリオにお会いした時にお願いし、ファッションやテキスタイルの仕事に携わるお友達2人と一緒にうかがいました。

3代続く、北アイルランドのテキスタイル・ブランド。1949年の創業時から変わらぬ工房は、ダブリンから車で約2時間、国境に隣接するダウン州、モーン山脈(Mourne Mountains, Co. Down)のふもとの素朴な景色の中にありました。

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以前に見せてもらった昔の写真そのままの建物。夏には絡んだツタが緑になって、より趣きがあることでしょう

リズミカルな足踏み式の織機の音が響く工房内を、オーナーのマリオがくまなく見せてくれました。

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鮮やかなオレンジ色の糸を織る職人さん

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今では博物館ピース…とも言えるくらいの古い機械もたくさん。こちらはボビン作り機…初めて見た!

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2階には、大小さまざまな織機がまだまだありました。まるで楽器でも演奏するかのように手つき良く機械を動かす若い職人さんがいて、聞くと彼は音楽をやっていたそうです。機織りにはリズム感も大事らしい(笑)

モーン・テキスタイルズを創業したマリオのお祖母さんは、ジャード・ヘイエディ(Gerd Hay-Edie)というテキスタイル・デザイナーで、インテリア家具、ファッションなどの有名デザイナーやメーカーとのコラボレーションで60年代、70年代には大変活躍した方だったようです。
ノルウェーで生まれ育ち、世界中を旅しながらさまざまな技術を学び、自ら選んだこの地に工房を構えました。
モーン・テキスタイルのモダンとも言えるデザインや、インテリアとの融合には、そんな北欧デザインの影響があるようです。それがアイルランド伝統のツイード織りの上で展開され、モーン山脈の荒涼とした自然の中で育まれることで、イケヤでもマリメッコでもなく、かと言ってドネゴール・ツイードでもない、唯一無二のオリジナルで洗練されたものになったのですね。
人間も遠い遺伝子同志がすぐれた子孫を残すと言いますが、文化や芸術、技術もそうなのかもしれません。

マリオは、家族のヘリテージを継承すべく2012年に家業を継ぎ、傾きかけた工房とブランドの再生を図りました。古いものは時代を経ると新しく見えることがありますが、モーン・テキスタイルズの製品はまさにそれ。

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織機の上に無造作に置かれたラグを手に取って、「これは祖母が作った50年代のオリジナルだよ」と言うマリオ。半世紀前のアイルランドの片田舎のコテージより、現代風のリビングに置く方が似合いそうなデザイン

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そして、現在も全く同じものが、同じ製法で作られています。ループを作るのに箸を使っているのに注目。お祖母さんのアイデアで、アジアの国を旅して持ち帰った箸を使ったのが始まりだそう!

見学後、工房に隣接するキッチン兼リビングに移動して、暖炉の前でコーヒーをいただきました。
そこへ続く通路が昔風の狭くて低いもので、まるでアンティーク・ショップのショーケースみたいに昔のキッチン用品や大皿が陳列されているので、なんだかタイムスリップしていく気分に。部屋の扉を開けながらマリオが「ようこそ『ナルニア』へ!」と言うので、もっとワクワクしてしまいました。そう、モーン山脈周辺は、北アイルランド出身のC.S.ルイスが書いた『ナルニア国物語』の舞台でもあるのです。

モーン・テキスタイルズの「ナルニア国」は、年代物のクッキング・オーブンのある、居心地のいい田舎のコテージそのもの。そして、マリオのお祖母さんの時代からの貴重なスウォッチ・ブック(布の見本帳)が山と積まれていました!

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暖炉の前でコーヒーをいただきながら見せていただきました。今は製品化されていない、カラフルなツイード生地もたくさんあってびっくり

手織りのスカーフ類、クッション・カバー、ラグ、壁紙などを手掛ける現在のモーン・テキスタイルですが、すべてお祖母さんの時代からのデザイン。このブックが源なのです。
中には、糸を手に入れるのが難しく、なかなか再現できなくなったものもあるそう。

そして、モーン・テキスタイルズのロゴも創業時から変わっていません。その由来もうかがうことが出来ました。

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子ヤギ…だそうです。肉屋で殺されそうになっていた子ヤギを可哀そうに思い、もらってきてペットにしていたマリオのお祖母さん。ある時、その子ヤギが飛び跳ねるのを見て、その姿をロゴに採用。ちなみにヤギのウールは製品には使われていません(笑)

この子ヤギは、もう生きていませんが、なんと子孫繁栄して、末裔が近所の牧場で元気にしているそうです!まるでモーン・テキスタイルズが3代続いているかのように。

工房の一般公開はしておらず、今回私たちは特別にお願いして見せていただいたのですが、将来的に地域の観光復興のために見学ツアーなども出来れば…とマリオは話していました。
そして、ファクトリー・ショップもないのですが、置いてあった在庫から特別に購入させてもらえることになり、思いがけずショッピング♪

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ずっと欲しかったターコイズ・ブルーのマフラーをついに購入!首周りでモコモコするのが嫌なので幅が細い方がいいな、と思っていたのですが、ワイドしかなく、ところが巻いてみたら肌ざわり抜群で全くモコモコしないではないですか。メリノ・ウール84%、カシミア8%、シルク8%。一生ものとして大事にします!

写真ではわかりませんが、ブルーと濃いグレーの2色織り。一見、ふつ~うのマフラーに見えますが、2色織りの効果で品のいい光沢感のあるブルーに。
お友達はモノトーンや、オートミール色などベーシックな色のものを購入。シルバーや白モヘヤも欲しかったけれど、巻く首はひとつしかないので我慢しました(笑)。

モーン・テキスタイルズの製品はオンラインでも購入(英語)できますし、ダブリンではクレオ(Cleo, Kildare Street, Dublin 2)で扱っています。
そして、日本でも買えるところがいくつかあるようですが、お勧めはやはり、この製品の良さを熟知しておられる静岡のジャックノザワヤさんです。遠方の方にもオンラインショップがありますが、今年はもう売り切れちゃっているかもしれませんね…。
※ジャックノザワヤさんのHPには、モーン・テキスタイルについての大変詳しいブランド紹介があります。私も参考にさせていただきました→モーン・テキスタイル Mourne Textiles (Northern Ireland))

忙しい中、私たちのために時間を割いて丁寧に案内してくれたマリオのお人柄にもあらためて感激。とても楽しく、貴重なひとときでした。

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工房近くで「ホワイト」フェイスのヒツジたちに遭遇。ブラックフェイスはたくさんいるけど、顔だけホワイトなのは初めて見た!

【2月16日追記】ご紹介したジャックノザワヤさんが、モーン・テキスタイルズの今年の秋冬用スカーフについて皆さんのご意見を募集しています。60年代の復刻デザインの新柄も紹介されています。次の冬に向けてぜひ♪
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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