ダブリンの2大教会のひとつ、聖パトリック大聖堂と並んで訪れる人の多いクライストチャーチ大聖堂(
Christ Church Cathedral, Dublin 8)。
2012年3月、この聖堂からダブリン守護聖人の聖遺物が盗まれる!…という事件がありました。
聖遺物(relics)とは、聖人が生前に愛用していたモノや身体の一部。
遺物の種類はさまざまで、アイルランドに残るものでは聖オリバーの頭蓋骨(→
St. Peter's Church, Drogheda, Co. Meath)、
聖バレンタインの聖血、イエス・キリストがかけられた十字架の切れ端(→
Holycross Abbey, Co. Tipperary)など。中世には遺物を入れる箱も豪華に作られ、今となってはそれが宝物となり、廃墟となった教会からダブリンの国立博物館に移され展示されているものもあります。
イタリアかスペインでは聖女が涙をふいたハンカチとか、腕の骨なんかも見た記憶が。
(ちなみに通常は箱に入っていて、遺物ソノモノが見えることはあまりありません)
クライストチャーチ大聖堂にある聖遺物は、ダブリンの守護聖人である聖ローレンス・オトゥールの心臓。
聖ローレンス・オトゥールは1128年にカウンティー・キルデアで生まれ、1161年にダブリン大司教となりクライストチャーチ大聖堂に着任。1180年にフランスで亡くなりなりノルマンディーに埋葬されましたが、心臓はダブリンに戻され、聖遺物として大切に保管されていました。
盗まれるまでは主祭壇奥の回廊の一角に、ハート型の木箱に入った状態で安置されていました。
それがなんと、6年の歳月を経て発見され、昨日大聖堂に無事戻って来たそうです。良かった、良かった~。

写真は
RTE News:800-year-old stolen relic of saint's heart recoveredより転載。聖遺物を入れる箱は中に入れるものと同じ形に作られることが多く、心臓だからハート型♪
それにしても、こんな厳重な鉄格子からどうやって出したのでしょう。
泥棒は聖堂内にひと晩忍んで盗み出し、キャンドルを2つ灯して立ち去ったのだとか。推理小説やサスペンス映画だったら、謎を読み解く暗号になりそう(笑)。
実際どんなドラマがあったのかわかりませんが、ダブリン市街地に隣接する広大な公園、フェニックス・パークで発見されたそうです。昨日警察より大聖堂に届けられ、聖遺物の無事の帰還を祝う特別な礼拝が行われ、長蛇の列ができたとか。
(ちなみに犯人は捕まっていません)

クライストチャーチ大聖堂全景(1月に撮影した写真なのでちょっと寒々しい印象)。バイキング王により建てられた木造教会でしが、12世紀半ばに石造に。オリジナルのアイリッシュ・ロマネスク様式のアーチが残っています。左奥にある建物は19世紀建立の参事会議事堂で、現在はダブリーニア(Dublinia)という中世ダブリンの様子を知ることの出来る博物館
早速、戻って来た聖人の心臓を拝みに行こうかな…なんて思ったのですが、すぐには公開されないようです。
安置するための祭壇か何かを設置する予定らしく、それが完成するのが11月頃とのこと。
この聖遺物というのはなかなか興味深いもので、その昔、旅の主目的が巡礼だったような時代には、人気のある聖人の遺物をひと目見んと遠路はるばるやって来る人も多かったのです。聖人は今でいう伝説のアイドルみたいな存在。その遺物を所有しているということは、教会の「人寄せ」に絶大な効果があったのですね。
訪れる人が増えれば教会の価値が高まることはもちろん、お布施で潤うことも期待できます。巡礼者は目指す教会周辺に宿をとり、食べたり飲んだり、お土産を買ったり。おかげで地域全体の経済活動も活発になったんですね。
現在の観光産業の走り…のようなものがそこに見て取れて、面白いなあと感じます。
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