fc2ブログ

「ケルズの書」はここで完成した!(聖コラムキルの家)

stclumcillshousekells09174
不思議な形の建物はカメラ縦位置にぎりぎり収まるサイズ。入り口にいるのは建物の鍵を管理しているカーペンターさん

ダブリンに来たらぜひ見ていただきたいのが、トリニティー・カレッジ内オールドライブラリー所蔵の「ケルズの書」(The Book of Kells & Old Library, TCD, Dublin 2)。800年頃に作成されたとされる、4つの福音書からなる美しい彩色写本です。
スコットランドのアイオナ島で作成され始めたものの、バイキングの襲撃を逃れてアイルランド島にやって来た修道士の手によりケルズにもたらされ、ケルズで完成したので「ケルズの書」と呼ばれることになりました。

書を完成させた場所だと考えられているのが、ここケルズの「聖コラムキルの家」(St Clumcille's House, Kells, Co. Meath)。高さ15m程の石造りの建造物です。
ケルト美術をテーマに旅するグループさんをお連れして、ダブリン北西ケルズの町中に忽然と残る建物を見に行ってきました。

案内してくださった管理人のカーペンターさんの説明によると、建てられたのは8~12世紀。
内部は3階建て+屋根裏部屋で、屋根裏は修道士の寝室(3室)兼、書を作成する場だったそうです。そういえば、アニメーション映画「ブレンダンとケルズの秘密」でも、ブレンダンはベッドの上で書を書いていましたよね。
(過去ブログ→「ブレンダンとケルズの秘密」この夏、日本で上映

書を完成させたとされる「聖コラムキルのベッド」と呼ばれる石は1956年に盗まれ、残念ながら行方がわかないまま。

stclumcillshousekells0917
屋根裏部屋への小さな入り口へ至る階段。この階段を大急ぎでのぼり、頭をぶつけて大けがした人がいたため、現在はのぼれなくしてあります

stclumcillshousekells09172
各階の木造の床は抜け落ちてしまっていますが、上階から居間、リクリエーション・ルーム、そして現在の1階は当時は地下でした。バイキングが攻めてきた時には、大切な書をかかえてここに逃げ込んだそう

上の写真の右下にある長細い穴は秘密のトンネルの入り口。現在はふさがれていますが、かつては隣接する修道院へつながっており、バイキングが襲ってくるとトンネルを通ってここへ逃げてきたそうです。
そのトンネル内で「ケルズの書」が発見され、1652年にミース大司教によりトリニティー・カレッジに寄贈されました。

stclumcillshousekells09173
この角度から見ると、西側壁(写真左)にかつてのドアのあとが見られます。このドアはリクリエーション・ルームへの入口であり、その下が隠れ家であった地下。現在のドアはフェイクで、当時は開かないようになっていたのだとか。東側壁は修道院側なので、バイキングに見つかることを恐れてドアがありません

stclumcilleshousekells091710
西側壁上部にある灯り取りの窓。ここから差し込む光で書を書きました

カーペンターさんの説明で初めて知ったことがいくつかありました。
「ケルズの書」は340枚のべラム紙(子牛の皮)から成っていますが、もとは365枚だったこと。25ページが失われたことになりますが、終わりの方のページだそうです。

そして、書の中の「キリストの誘惑」のページには、この建物が描かれているのだそう!

Temptationofchristbookofkells
このページ、しばらく前にオールドライブラリーで本物が展示されていました。中央に描かれたとんがり屋根の家が聖コラムキルの家。屋根の上にいるのが聖コラムキル、その上に天使、右側には誘惑する悪魔がいます

聖人コラムキルは北西部ドネゴール生まれ。戦いに負けた側の責任を問われ島流しにあい、アイオナ島にたどりついたと言われています。(所説あり)
アイオナ島を拠点にスコットランド全土にキリスト教を伝播。北アイルランド、スコットランドでは英語名の「聖コロンバ」とも呼ばれます。

ケルズもコラムキルが創始した修道院だったので、アイオナの修道士たちはその縁でここに移ってきました。
聖コラムキルの家に隣接する修道院跡地には、ケルト十字架や中世に改築された教会が残っていますが、長くなるのでその紹介は後日。

ちなみにこの切妻屋根の石造りの建物ですが、グレンダーロックの聖ケヴィン教会とよく似ていますよね。
通常、教会の屋根は木造ですが、屋根まで石造にするということは特別な意味があると考えられます。バイキングの襲撃に備えてなのか、特別な祈りの場としてなのか。
ラウンドタワーといい、この長方形の建物といい、ヨーロッパ大陸のキリスト教会には見られないユニークな建造物があるのがケルト教会の魅力です。そして、用途がはっきりと特定できないのもミステリアス。

聖コラムキルの家は通常は鍵がかけられています。内部を見学したい場合は、近所にお住まいのカーペンターさんを訪ねて、鍵を開けてもらってください。(案内もしてくださるので、ひとり5ユーロ程度の謝礼をするのが望ましです)

stclumcillshousekells09175
入り口ゲートにカーペンターさん宅への地図あり

行き方:ケルズ(Kells, Co. Meath)の町の中心にあるラウンドタワーのある聖コロンバ教会(At Columba's Church/Abbey of Kells)を目指してください。Church St側の入口にある「St Clumcille's House」の標識に従ってChurch Laneを200m程進む(上り坂)と右側にあります。Kells Garda Station(ケルズ交番)の隣り。

関連記事

コメント

非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

Instagram

お知らせ ☘

旅のガイドご予約・お問合せはこちら
ガイディング・アイルランド

「絶景とファンタジーの島 アイルランドへ」(イカロス出版)
☘8/29最新版刊行☘好評発売中!
ikarosbook0517 . ikarosnewbook0823
初版はこちら

秋のケルト市!
2023年10月29日(土)
映画『ウルフウォーカー』解説上映
詳細はこちら

拙著販売&サイン会!
2023年11月27日(月)京都
ルナサ来日コンサート会場にて
詳細はこちら

2023年12月2日(土)東京すみだ
2023年12月3日(日)所沢
ケルティック・クリスマス会場にて
詳細はこちら

岡山市にて講演!
2023年12月9日(土)
→詳細は追ってお知らせ致します!

東京・銀座にて講演!
2024年1月14日(日)
→詳細は追ってお知らせ致します!

新規オンライン講座!
→詳細は追ってお知らせ致します!

過去のオンライン講座配信
見逃し配信ご購入可!
2020年6~8月・全6回→こちら
2020年12月・特別回→こちら

カレンダー

08 | 2023/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

月別アーカイブ