fc2ブログ

アイルランドの珍味カラギン・プディング

アイルランドの西海岸に伝わる伝統的なレシピに、「カラギン(carrageen)」という名の海草を使ったデザートがあります。

海に囲まれたアイルランド、ふんだんにある海草をさまざまな形で利用しているものの食用としては一般的でなく、おそらくこのカラギン・デザートが、アイルランド唯一の「海草料理」

woodhilldinner3

とろ火で煮詰めてゼリー状になったカラギンに、牛乳を加えて作るプディングは、その昔アイルランドが貧しかった時代、沿岸部の人々が身近にあるもので工夫して作った食べ物。消化が良いことから、病人食としても重宝されたようです。

ゼリーよりなめらかで、通常のプディングよりプルプルと弾力性のある食感。子供の頃に食べた牛乳寒をおいしくしたようなこの味は、アイリッシュよりむしろ日本人好み…?!
飲み込んだ後にやってくるほのかな磯の香が、海草に慣れ親しんだ私たちにはなんだか懐かしくさえあります。

ところが、今や古いレシピとなったこのデザート、家庭で作る人もあまりなく、レストランでもめったにお目にかかれません
写真のカラギン・プディングは、以前にもこのブログで紹介したカウンティー・ドネゴールのウッドヒル・ハウス(Woodhill House)のもの。
私が始めて出会ったカラギン・プディングは、ここのお手製でした。ウェイターの男の子が「アイリッシュ・デリカシー(アイルランドの珍味)を召し上がれ!」とサーヴしてくれ、これが今や消えかけた伝統の味なのね~と感激していただいたのが、かれこれ数年前の話。
以来すっかりカラギンのファンになってしまった私は、日本のお客様に事あるごとにカラギンについて熱弁をふるい続けています。

ウッドヒルでは、今も変わらず伝統の味をサービスし続けています。
この夏、お客様とご一緒にウッドヒルで食事をしていた時のこと、隣りの席にいたアイルランド人の中高年の男女数人が「見て、見て、カラギン・プディングですって!子供の頃からずっと食べていないわ~懐かしいわね~」とメニューを広げておおはしゃぎ。アイルランド人にとっても今や珍しい食べ物となってしまったのでしょう。
(ウッドヒルではほぼ毎日メニューに加えていますが、必ず食べたい場合は事前に要リクエスト!)

カラギンは別名アイリッシュ・モスとも言われ、アイルランド沿岸部の岩場に生える、色とりどりの小さなテングサ類。その名は、アイルランド南東部にある同名の村に由来するとか。
昨今の健康食ブームにより、近ごろは袋入りドライ・カラギンも目にするようになりました。

carrageenfukuroiri

carrageenmoss
(袋の裏に書かれているレシピを見て作ってみました。この時はカラギンを入れすぎて大失敗)

「ヤハズノツノマタ(矢筈角又)」という呪文ような響きの和名を持つカラギンは、寒天と並ぶ海草加工品として1959年に認可された「カラギーナン」の原料でもあります。
寒天よりもなめらかで弾力性のあるカラギーナンは、味がなくノン・カロリー。世界各国で乳製食品に使用され、日本でもゼリー状の食べ物などに多く使われているので、知らず知らずのうちに誰もが口にしているのでしょう。

カラギン・プディングのレシピは、移民したアイルランド人によってアメリカやカナダへ伝えられ、むしろそちらで一般化しました。
『赤毛のアン』で知られるカナダの女流作家L.M.モンゴメリの作品にカラギン・プディング(作中ではirish moss jerry)を発見したPearlさんのエキサイティングなお話はこちら
舞台となったカナダ東海岸のプリンス・エドワード島に詳しい友人が送ってくれた資料によると、あちらでは「シーウィード・パイ(Seaweed Pie)」と呼ばれ、アイルランド本国のゼリー風デザートとはずい分違った様子。時が経つうちに、カナダ人好みのデザートに変化していったのでしょうね。

先日、お料理に定評のあるバリマルー・ハウス(Ballymaloe House)のディナーでも、カラギン・プディングがデザートに登場

carrageenballymaloe
付け合せはベリーのジャムと洋ナシのコンポート

ウッドヒルのものに比べてプルプル感が全くなく、口の中でとけるような食感。磯の香もなく、なんだかやわらかいメレンゲを食べているようで、ちょっと物足りない…。
欧米人の中には磯の香りが苦手な人も多いでしょうから、きっとカラギンの分量を少なめにし、今風にアレンジしたものだったのでしょう。

暮らしが豊かになり、古い伝統文化を見直す余裕が出てきた近ごろのアイルランド。食文化に関しても、シンプルでヘルシーな伝統の味が見直され始めています。
健康食としても十分いけるカラギン・プディング。どうやら少~しずつ復活の兆しを見せているようですので、近い将来、よりポピュラーなアイルランド料理として紹介される日が来るかもしれませんね。

※4年越しの夢が叶い、このたび本場のカラギン・デザートを食されたPearlさんの体験記こちらです!
関連記事

コメント

Pearl

まだまだ色んなカラギンに会えそうですね。
また御報告をお待ちしています!

naokoguide

Pearlさんへ
カラギン博士目指して、頑張ります(笑)!
Pearlさんの旅行記を読むのが、このところの日々の楽しみ~♪
早く続きを読みたいけれど、終わって欲しくないという複雑な心境です。

山元節子

カラギン
ページを拝見し、カラギンを試してみたいと思っております。
日本から購入したいのですが、どこに問い合わせればよいのか、お教えいただけますでしょうか?  よろしくお願いいたします。  山元節子

naokoguide

山元節子さま
こんにちは。カラギンについて、ご興味を持ってくださり、嬉しいです。
いろいろ見ていたら、北アイルランドのこちらの会社がメールオーダーを受け付けているようです。
http://www.dolphinseaveg.com/index.asp
詳しくは、メールでお話しますね!

mika

面白かったです。また、きますね。

naokoguide

mikaさん
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします!
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

Instagram

お知らせ ☘

旅のガイドご予約・お問合せはこちら
ガイディング・アイルランド

「絶景とファンタジーの島 アイルランドへ」(イカロス出版)
☘8/29最新版刊行☘好評発売中!
ikarosbook0517 . ikarosnewbook0823
初版はこちら

秋のケルト市!
2023年10月29日(土)
映画『ウルフウォーカー』解説上映
詳細はこちら

拙著販売&サイン会!
2023年11月27日(月)京都
ルナサ来日コンサート会場にて
詳細はこちら

2023年12月2日(土)東京すみだ
2023年12月3日(日)所沢
ケルティック・クリスマス会場にて
詳細はこちら

岡山市にて講演!
2023年12月9日(土)
→詳細は追ってお知らせ致します!

東京・銀座にて講演!
2024年1月14日(日)
→詳細は追ってお知らせ致します!

新規オンライン講座!
→詳細は追ってお知らせ致します!

過去のオンライン講座配信
見逃し配信ご購入可!
2020年6~8月・全6回→こちら
2020年12月・特別回→こちら

カレンダー

08 | 2023/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

月別アーカイブ