
首相の力強いスピーチのあと、アイルランドからアメリカへシャムロックをプレゼントする恒例の儀式(
Taoiseach presents Trump with bowl of shamrock・3月17日付RTRE Newsより
アイルランドのエンダ・ケニー首相がアメリカで行った「移民を称える」スピーチが全世界で話題になっています!
アイルランドの首相は毎年セント・パトリックス・デーにアメリカへ出かけ、前日の3月16日にホワイトハウスの大統領を訪ねるのが習わし。これは過去の移民の歴史に関係する外交で、アイルランド移民を受けいてくれたアメリカに感謝し、両国友好のしるしにシャムロックの鉢をプレゼントします。
トランプ政権になり、今年もこの行事するの?ボイコットしちゃえば?…なんて意見も国内でちらほら聞こえたのですが、ちゃんと行われました。アイルランド人らしく誰を個人的に避難するわけもなく、ただ正しいことをする!という正々堂々とした態度で心に響くスピーチをしてくれました。
スピーチのビデオ映像はここで見られます。
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30 million views and counting: Enda Kenny’s St Patrick’s speech goes viral(「3000万人が視聴、エンダ・ケニーのセント・パトリックスのスピーチが広まる」3月19日付けIrish Times)
私はこれを聞いて、エンダ素晴らしい!と本当に誇らしく思いました。
スピーチの内容で心に残った部分を簡単に要約(意訳)しますね。
「セント・パトリックス・デーは
アイルランド人男性、アイルランド人女性、そしてアイルランド移民の子孫みなにとってもっともスペシャルな日です」(下線部の、単に「アイルランド人」とせず、「アイリッシュ・メン&アイリッシュ・ウイメン」とするのは1916年に読み上げられた共和国宣言書の言い方に習ったものでしょう)
(このあとトランプ大統領の就任への祝辞、ねぎらい、アメリカの偉大さを称える言葉でアメリカ側をしっかり持ち上げ、アイルランド人移民がアメリカに貢献した例を話す→ホワイトハウスがキルケニー出身のジェイムズ・ホーガンのデザインであることなど)
「聖パトリックも移民であり、アイルランドの守護聖人であると同時に移民の守護シンボルでした」(聖パトリックはウェールズ出身)
「アイルランド人がアメリカに来たのは、自由を取り戻すため。チャンス、安全、さらには食べ物をその手につかむためやって来ました」(この話をするときにエンダの諭すような物言いが印象的!)
「3500万人のアメリカ人がアイルランド人の子孫です。自由の女神が灯をかかげる40年まえ、疲れ切った難民だった我々は、アメリカの保護、慈悲の心、チャンスをつかむことを信じてアメリカに来てアメリカ人となりました」
「我々はアメリカに何かをしてもらうことを求めたのではなく、アメリカのためにできることをし、今も続けています。我々は与えたい(give)のです、奪いたい(take)のではありません」
「アイルランド人は道に橋をかけ(「bridge」という言葉をよくぞ入れた!)人々を守り、警察、消防、医療に貢献、文学、音楽、政治で人々を楽しませ、近年テクノロジーの分野でアメリカ人に何千何百という雇用を与えました」
「アイルランドはヨーロッパの端にある小さな島国ですが、アメリカとヨーロッパの天然の架け橋(ここでもう一度「bridge」を強調)なのです」
ケニー首相はトランプ大統領の移民規制の方針には一切、触れていません。
アイルランド人が「移民」としてアメリカを支えてきたことを正々堂々をスピーチしたのみ。アメリカはアイルランド人を受け入れてくれて、移民として到来したアイルランド人がアメリカの一部となり国を支えた…と、ひたすら協調したのですね。
これぞ本当の外交。素晴らしい。
「我々は与えたいのです、奪いたいのではありません(We want to give、not to take)」
この言葉がトランプ大統領の移民規制に対する、最大の「反意」であり、橋をかけずに壁をつくろうとする彼への最大の「啓蒙」であったと思います。
私も現代の移民のひとりですから、ティーショック(アイルランド語の「首相」の意。アイルランドでは首相をこう呼ぶのが正式)の言葉に深く共鳴。そうなんです、してくれることだけ求めてもうまくいかない。受け入れてくれたことを感謝して、この国にどう役立てるのか、何ができるのか、そういう立ち位置でいると楽しい移民生活が送れる。
これまでなんとなくそう感じていたけれど、アイルランド人はやっぱり理解してくれていたんだ、とケニー首相の言葉を聞き胸が熱くなりました。
アメリカが世界の警察なら、ヨーロッパの小国アイルランドは世界の「心」の警察。正義の味方としてこんなふうにパワーを放っていくアイルランドという国を心から誇らしく思いました。
≪余談≫
ティーショックのあの溌剌とした感じは、彼がスポーツマンだからです。
北西部カウンティー・メイヨーのGAA(アイルランド国技)一家で育ち、若い時はゲーリック・フットボールの選手。山登りが趣味でキリマンジャロにも登ったことあり、地元の聖山クロー・パトリックには数え切れないほど登っているそうです。
かれこれ数年前のことですが、2013年の暮れにティーショックが日本訪問した直後だったでしょうか、ガバメント・ビルティング近くのホテル前で朝、お客様がいらっしゃるのを待っていたら、たまたまティーショックがSPらしき人と2人で歩いていました。(朝食帰りに仕事へ…みたいな雰囲気だった・笑)
あ、エンダが歩いてる、と思った次の瞬間、「ハロー!」と大きな声で手をあげて私に挨拶してくれた。日本へ行ったばかりで日本顔を見て、あっ!と思ったのでしょうか。なんだかとても気持ちのいい人だな、と思った覚えがあります。
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コメント
浜本 あゆみ
ブログと本を拝見させていただき、アイルランドへの憧れを募らせております。
アイルランドへの友人との2人旅を計画しております。個人旅行であってもサポートをしていただくことは可能なのでしょうか。可能な場合は、どのようなことが可能なのでしょうか。予算も含めて教えていただければと思います。
よろしくお願いいたします。
2018/11/06 URL 編集
naokoguide
いただいたアドレスにメールさせていただきますね。
どうぞよろしくお願いいたします!
2018/11/07 URL 編集