まさかの結果のアメリカ大統領選から一夜明けて、ショック状態から、少しづつ現実を直視できるようになってきました(笑)。
アイルランドでも衝撃が走っているようで、私の友人の中にはショックで寝込んでしまったという人も。過去の移民の歴史により、アメリカとは親戚のような間柄にあるアイルランドですから、アメリカの内情によりエモーショナルに反応するのかもしれません。
日本ではトランプ氏の今後の政策や、日米関係への影響がさかんに報道されていますが、アイルランドでは、モラル(道徳・倫理)やヒューマニティー(人間らしさ)の観点からトランプ氏の勝利を嘆く声が大きいように思います。
アイルランドの友人たちから聞こえてくるのは、「女性や弱者、マイノリティーがますます生きにくい世の中になってしまう」、「トランプ氏はグローバル・ウォーミングを軽視(どころか無視)している」といった声。アメリカという国が感情的に近しいせいか、アンチ・アメリカな発言も多く聞かれ、「アメリカはついに化けの皮がはがれた」なんて皮肉を言う人も。(モラルや人間性に欠けるトランプ氏がアメリカを象徴している、という意味)
ところで、トランプ氏はメキシコとの国境に壁を作る!と発言し論議をかもしていますが、実はアイルランドにも壁を作ろうとしています。トランプ氏は壁好き…なんてジョークが飛び出しそうですが、現状ではアイルランドの壁はメキシコより現実となる可能性が高く、ジョークでは片づられない問題となってきています。
2014年にトランプ氏は、アイルランド西海岸のカウンティー・クレアにあるドゥーンベッグ・ゴルフ・クラブ(Doonbeg Golf Club)を買い取りました。400エーカーの敷地を有するゴルフ・リゾートには、5つ星の美しいリゾート・ホテルと、大西洋に面して4キロの海岸線を有する世界屈指のリンクス・コースがあり、現在、トランプ・インターナショナル・ゴルフ・リンクス・アンド・ホテル(
Trump International Golf Links & Hotel)の名で営業が行われています。
そのゴルフ・コースの海岸線2.8kmにわたって、5メートルの高さの巨大な壁を建設するというのがトランプ氏のアイデア。そうしないと自分のゴルフ・コースが砂で浸食されてしまい、将来的にはホールが埋まってしまう、とトランプ氏は言うのです。
ドゥーンベッグは天然の砂丘に囲まれた美しいビーチで、地元サーファーの隠れスポットのひとつ。キャロモア・ドゥーンズ(Carrowmore Dunes)と呼ばれる砂丘はEUの特別保護区域(Special Area of Conservation)に指定されており、自然環境の上でも重要視されるスポットです。
そこに3メートル近い壁が建てられてしまったら、砂丘は破壊され、景観が台無しになるばかりか、地元の人もサーファーもビーチへ入れなくなってしまいます。ビーチの地形が変わり、サーフィンの出来る波がたたなくなる可能性も…。
ドゥーンベッグにゴルフ場が建設されたのは今から15年ほど前でしょうか。ゴルフ場が出来たらビーチへアクセス出来なくなるとサーファーから猛反対の声があがり、ゴルフ場内に「サーファーの道」を作ることで和解したという経緯があります。
その代わり、サーファーは5つ星ホテルの入り口や駐車場への立ち入り禁止。私たちはその決まりを守り、ゴルファーとサーファーが互いの権利を尊重し合って、仲良くやってきました。

ドゥーンベッグ・ゴルフ場内の「サーファーの道」。看板には「サーファーの入り口(Surfer's Entrance)」と書かれています(2012年5月撮影)
私も何度かドゥーンベッグ・ビーチでサーフィンをしたことがありますが、ホテルやゴルフ場利用者の邪魔にならないところへ車を停めて、ボードを持って「サーファーの道」をえっちらおっちら歩いてビーチへ行くのです。ゴルフ場の真ん中を通るので、プレイ中のゴルファーの球がサーファーに当たっては大変!との配慮から、ゴルフ場の係員が旗を上げ下げして交通整理してくれることも!(笑)
ゴルフ場の建設自体が環境破壊と言われればそれまでですが、地元経済のため開発が必要なことも理解しなくてはなりませんから、互いに譲歩しつつ、環境や人に出来る限りの配慮をしてやってきたのです。
「サーファーの道」はそんなアイルランドの「リスペクトする(互いを尊重する)心」の象徴であると、誇りに思っていました。
総重量20万トンに及ぶ石を運んで来て、公共のビーチに壁を建設するというトランプ氏の計画は、あまりにも安易かつ、土地の人々への配慮がなさすぎます。
地元カウンティー・クレアの行政は、12月までに壁建設の許可を出すかどうか決断を迫られているようです。もしも行政が許可しなければ、トランプ氏はゴルフ場の経営をやめると宣言しているそうです。自分の要求を通してくれなければ、地元の経済に打撃を与えるぞ、というブラックメール(脅し)ですね。

ドゥーンベッグ/ドウモア海岸の壁建設に反対するキャンペーンが進められています。ぜひ署名を!→
Stop Trump's Irish Wallこの「壁を作る」という発想そのものが、トランプ氏という人物を象徴しているように思えてなりません。
アメリカを守るためにメキシコ国境に壁を作る。自分のビジネス(ゴルフ・リゾート)を守るために海辺に壁を作る。一見、道理にかなった解決策かに聞こえますが、その根底にあるのは、「嫌いなもの・自分の得にならないものは壁の向こうへやってしまえ!」という乱暴かつ、安易で危険な考え方。
壁を作って分断してもなんの解決にもならないことは、過去の歴史が証明しています。ベルリンの壁は崩れ、北アイルランドの壁(ピースライン)も将来的に撤去される方向へと話が進んでいるというのに、今さら壁とは、時代遅れも甚だしい。個人レベルでも、壁を作ったら友達は出来ませんよね(笑)。
トランプ氏。壁の向こうにはあるものにも、ぜひとも想像力を働かせていただきたいと切に願います。
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