C.S.ルイスゆかりの地めぐり①~イースト・ベルファースト&近郊で触れた、聖マーク教会についてご紹介したいと思います。
ベルファースト出身の『ナルニア国物語』の作者C.S.ルイス(Clive Staples Lewis, 1898-1963)は、1899年1月、ドゥンデラ・アベニュー(Dundela Avenue, Belfast)の生家から徒歩10分程のところにある聖マーク教会(
St Mark's Church Dundela, Holywood Road, Belfast)にて、牧師であった母方の祖父より洗礼を受けました。

1873~1878年建立の聖マーク教会。ビクトリア時代の英国の著名な建築家、ウィリアム・バターフィールド(William Butterfield)設計。ロンドン一高い塔を持つAll Saints Margaret Streetや、オックスフォードの Keble Collegeを手がけたバターフィールドが、アイルランドでの唯一手がけた建造物です
ルイスを洗礼した祖父のトーマス・ロバート・ハミルトン牧師(Rev. Thomas Robert Hamilton)は、聖マーク教会の初代牧師でした。ルイスの両親が結婚式を挙げたのもこの教会ですし、少年時代のルイスが家族とともに礼拝に参列したのもここ、ルイス一家とは切っても切り離せない縁の深い場所です。
私がお客様と聖マーク教会を訪ねたのは、日曜日の礼拝が終わった直後でした。その場に居合わせた教区民の方々が思いがけず歓迎してくださり、どこからともなく職員の方が出てきて、親切にも教会内部を案内してくださいました。
教区の方々はルイスとのつながりを誇りに思っておられるようで、思った以上にルイスゆかりのものがいろいろあり、感激しました。

ルイスが洗礼を受けた洗礼盤。今でも使われることがあるそうです

「ルイスの窓(Lewis Window)」と呼ばれるステンドグラス。1933年にルイス兄弟により教会に寄贈されました。左から聖ルーク(ルカ)、聖ジェイムズ(ヤコブ)、聖マーク(マルコ)。真ん中の聖ジェームズが手にしている聖杯は、1908年にルイス家が教会に寄贈したもののレプリカだと言われています。(
こちらの資料に聖杯の写真あり)聖ジェイムズの足元にはラテン語で、ルイスの両親の名前&亡くなった年月日が記されていますので、両親のメモリアルなのでしょう

ルイスの祖父であり、教会の初代牧師であったトーマス・ロバート・ハミルトン牧師の記念ステンドグラス。1906年のもの。写真には写っていませんが、ステンドグラス下に英語でその旨を記載したプレートがあります

ルイス家が教会に寄贈した聖書台は今も使用されています。福音記者の聖ジョン(ヨハネ)を表すワシ(ワシの広げた羽が神の言葉を運ぶとの考えから)
この教会は身廊と塔が出来たところで資金不足となり、内陣がないままいったん完成となりました。リネン産業で財を築いた富豪ウィリアム・ユアート(William Ewartt)の資金援助により、1891年、当初のバターフィールドのデザイン通りに最終的に完成。(それでも身廊の幅が予定より狭いままだそうですが)ルイスが生まれる7年前のことです。
ユアート家はルイスの母方と親戚だったので、両家の子供たちは親しくしており、互いに行き来があったと案内してくれた職員の方が教えてくださいました。

祭壇側から見た教会内部全景。船底型の天井は、なんとリネン張り!リネン産業で栄えたベルファーストならではですね
教会内部をご案内していただき、ゲストブックに記帳をして、お礼を言って教会を後にしようとしたその時。ご案内くださった職員の方が、「そうだ、もうひとつお見せしたいものがあった!こちらへどうぞ…」と言って、教会の外へ。
一体なんだろう…と興味津々でついていくと、お隣りの建物の赤い扉にある、このドアノブを差し示すではありませんか。

ライオンのドアノブ!思わず、アスラ~ン!と叫びそうになってしまいました!
事前にこの教会のことを調べていた時、「扉の取っ手がライオン」とどこかで読んでいたので、てっきり教会の扉だと思い、見当たらないなあ~と思っていたのでした。
隣りの元牧師館(現在は教会職員のオフィス)の扉だったとは!これは教えてもらわなかったら探せなかったでしょう。しかも、思い出したかのように最後に付け足して案内してくださったのが、こちらの心を読んでくれていたかのようで何とも不思議。

ナルニアへ行けるかな?(笑)ドアノブに手をかけるお客様(ちなみに扉は開きませんでした…)
そう、ここは聖マーク(マルコ)教会。聖マークはライオンで象徴されるのです。(ヴェネチアのサン・マルコ寺院に金のライオンのマークがついていますね)
『ナルニア国物語』に詳しい方はご存知かと思いますが、物語に登場するライオンのアスランは、物語をキリスト教的視点で捕えた場合、神(イエス・キリスト)と見立てられます。14歳でキリスト教の信仰を捨て無神論者となったルイスは、31歳で再び信心し、その後は信徒伝道者としてさまざまなキリスト教関連の著作を著しています。
一度は信仰に挫折したものの、ルイスのキリスト教徒としての人生はこの聖マーク教会から始まったのです。それを思うと聖マークの象徴であるライオンがアスラン(=神)として物語に登場するのは合点がいき、ルイス自身のパーソナルな体験や想いがそこに込められている思えてなりません。
要するにここが、キリスト教徒としてのC.S.ルイスの原点なのでした。
少年時代のルイスはこのドアノブを押して扉を開け、牧師であったお祖父さんを訪ねたことでしょう。扉の向こうに魔法の国(=神の秩序が保たれる理想郷)ナルニアがある、という発想の伏線が、なんとここにもあったか!と思わず膝を打ちたくなる出来事でした。
※『ナルニア国物語』に込められたキリスト教的視点にご興味のある方は、富山鹿島町教会の牧師さんが書かれたこちら連載エッセイを読んでみてください。読み応えあり、とても興味深いです。→
「ナルニア国物語」についての牧師・藤掛順一さんのエッセイ
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コメント
湯浅恭子
ルイスの洗練の年号が1999年となっていましたが、1898年の間違いだと思うのですが。http://dundela.down.anglican.org/stmarks_cslewis.html。
ただ、ルイスのキリスト教信仰を知るうえで、それほど重要な年号ではないと思われるので、無視しもいいのかもしれませんが、ちょっと気になったので、メールさせていただきました。これからもアイルランドの風を感じる記事を楽しみにしております。湯浅恭子
2016/06/26 URL 編集
naokoguide
長々と書いたものを読んでくださり、ありがとうございます。コメント嬉しいです。
洗礼の年号は1899年ですね。1898年11月に生まれ、年が明けた1899年1月に洗礼を聖マーク教会で洗礼を受けたと記録されています。8と9の書き間違いでした。ご指摘ありがとうございます。訂正しました。
クイーンズユニバーシティー内の記念ルームや、ナルニアのイメージのもとになった場所についても、またおいおい書かせていただきたいと思っています。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
2016/06/27 URL 編集
Golfun
今日は
ルイス島のことをいろいろ紹介されて楽しく拝見しました。
アイルランドは一人で気ままなドライブの旅で楽しみました。
アラン島には行きましたが、残念ながらルイス島までは行くことが出来ません。
ナオコさんのアイルランドの紹介で昔、旅したことを思い出しました。
まだ知らない所が多いので次回を楽しみにしています。
2016/07/02 URL 編集
naokoguide
スコットランドのルイス島のことではなくて、ご紹介させていただいたのはベルファースト出身のC.S.ルイスという作家のことです。
私もルイス島はまだ行ったことがなく、行ってみたい場所のひとつです。
ブログを参考にしていただきありがとうございます。また新しい場所へ行ったら、ご紹介させていただきますね♪
2016/07/02 URL 編集