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C.S.ルイスゆかりの地めぐり①~イースト・ベルファースト&近郊

美しい夏のお天気に恵まれた今日のベルファースト(Belfast)。海外の児童文学や、英国関連の著書もおありのライターの方を、『ナルニア国物語』の作者C.S.ルイス(Clive Staples Lewis, 1898-1963)ゆかりの地めぐりにご案内しました。
自分自身の覚え書きのためにも、ご案内した場所とルイスとの関連を記しておこうと思います。

C.S.ルイスは1898年11月29日、弁護士の父と牧師の娘であった母との間に生まれました。
その頃のベルファーストは、造船とリネンを中心に産業革命の恩恵を受けて栄えていた時代。ルイスの父方の祖父はダブリンから産業革命の波に乗ってベルファーストへやって来て、造船関係のビジネスをおこして成功しました。ルイスの生まれる前年にベルファーストは町から市へと昇格、ルイスが生まれた年にシティーホールの建設が始まっています。
そんな活気に溢れた時代のベルファーストで、ルイスはアッパークラスのお坊ちゃんとして生まれ育ったのでした。

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ドゥンデラ・アベニュー47番地(47 Dundela Avenue)で生まれました。生家は残っておらず、生家跡地に建つアパートの壁に記念プレートがあります(小学校の向かい側)

1999年1月、ルイスは生家跡地から徒歩10分程のところにある聖マーク教会(Sr Mark's Church Dundela, Holywood Road)で、牧師であったルイスの母方の祖父より洗礼を受けます。
この教会のことはルイス一家がのちに寄贈したものなどを含め特筆すべきことがいろいろありますので、後日あたらためてご紹介したいと思います。

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ルイスが洗礼を受けた聖マーク教会(Sr Mark's Church Dundela, Holywood Road)

1905年、ルイス7歳の時に、一家は高台の高級住宅地に移り住みます。リトルリー(76 Little Lea, Circular Road)という名の、赤れんがの切妻屋根の邸宅でした。

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Little Leaとは「小さな場所」という意味だそうですが、屋号に反して大邸宅です。現在はプライベートのため家全景を写真を納めるのははばかられたので、門柱のみ

リトルリーの屋根裏がルイス少年の部屋で、父親に買ってもらった双眼鏡(天体望遠鏡と書かれているものもあり)で窓から造船所のあるベルファーストの街を眺めていたと聞いたことがあります。
世界最大級の造船所であったハーランド・アンド・ウォルフ社 (Harland and Wolff)がタイタニック号を造船していたのが1909~1910年、ルイス10~11歳の頃。そんな様子も、もしかするとつぶさに見ていたかもしれませんね。

『ナルニア国物語』は、ぺペンシー家の4人兄弟姉妹が、疎開先の家にあった衣装ダンスの扉を開けてナルニアという不思議な国へ冒険に繰り出す…というお話ですが、そのモデルとなった衣装ダンスがこのリトル・リーにあったと言われています。
父方の祖父がオーク材を細工して作った大きな衣装ダンスで、兄と一緒にタンスの中にもぐりこんでは冒険物語を語って過ごしたそうですが、そんな少年時代のささいな思い出からのちの名作が生まれたのですね。

リトルリーでの少年時代は、その後のルイスの人生にさまざまな影響を与えることとなります。
本をたくさん読む少年で、ビアトリクス・ポターの絵本やイーディス・ネズビットが愛読書。ポターの動物たちにインスピレーションを得て、兄と一緒に「ボクセン」という架空の動物王国を作ったのもこの頃です。(『ナルニア』に出てくる言葉をしゃべる動物たちの発想はここから来たのかも)
1908年、ルイスが10歳の時、最愛の母が癌であの世へ旅立ってしまうという悲劇が起こったのもこの家に暮らしていた時でした。幼くして母を失ったことはルイスの生涯に渡り、大きな影を落とすこととなります。

ルイスは主に自宅での個人指導で教育されました。母の死後、兄と同じ英国の寄宿学校へ行くのですが、ほどなく学校が閉鎖。その後、リトルリー近くのキャンベル・カレッジ(Campbell College)へ2か月間だけ通っていたことがありました。

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1894年創立の名門男子校キャンベル・カレッジ

この学校のドライブウェイにある街燈が、衣装ダンスを開けたところに立っているナルニア国の街灯のモデルであると言われています。(別の説もあり)

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キャンベル・カレッジの街灯

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ポーリン・ベインズの『ライオンと魔女』の中の有名な挿絵。街灯を見比べてみると、やっぱりキャンベル・カレッジのものとそっくりですよね。ルーシーがタムナスさんと初めて会うこのシーンはナルニア全編の中でも特に印象的。特にこの絵のイメージで記憶に焼き付いています(「ナルニア国の父C.S.ルイス」岩波書店より)

ちなみに、この挿絵をあらためて見てみると、木立の感じに見覚えが…。今や「ゲーム・オヴ・スローンズ(Game of Thrones)」のロケ地として大人気の、同じく北アイルランドにあるダークヘッジズ(Dark Hedges)とよく似ていませんか? モデル説(根拠なし)を唱えたくなるほど(笑)。
ブナの並木道、ダークヘッジズ

C.S.ルイスがキャンベル・カレッジに2か月しか通わなかったのは、呼吸器系の病気になったからでした。
その後はイングランドの温泉療養地にある学校へ行ったり(その時期にキリスト教の信仰を離れ、神話やオカルトにはまる)、リトルリーに戻り個人指導を受けたりして、1916年、17歳の時にオックスフォード大学の奨学金を授与され、最終的にアイルランドを離れることになります。

ルイス生誕100周年の1998年に、ハリウッド・アーチズ図書館(Holywood Arches Library,4-12 Holywood Road)の前にC.S.ルイスの銅像が建立されました。
今日お客様をお連れして行ってみると、歩行者&サイクリスト用の道を作るための開発プロジェクトにより、その辺り一帯が工事現場と化していました。ルイス像にもカバーがかけられていて、残念ながらお客様にお見せすることが出来ませんでした。
(今年2月には見られたので、その後にこうなったのでしょう。カバーがいつ外されるのかは不明)

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ルイス本人が衣装ダンスの扉を開けようとしている、こんな銅像(2005年撮影)→ベルファーストとナルニア国

近くにルイスにちなむ壁画(Murals)が2か所あるので、そこもご案内。

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ルイスの顔、アスラン、街燈、ケア・バラベル城など。長い壁画で一枚の写真に納まらず(Pansy Street off Dee Street)

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こちらには衣装ダンスをあけるルーシーも登場。白い魔女の顔が怖い…(Convention Court off Ballymacarrett Road)

アイルランドを離れた後も、折に触れてベルファーストを訪れていたというルイス。
57歳の時にユダヤ系アメリカ人ジョイ・ディビッドマンと結婚し、ハネムーンで北アイルランドを訪れた時には、ベルファースト近郊のクロウフォーズバーンという小さな村に滞在しています。
ルイスとジョイが滞在した宿は今や結婚式で人気の4つ星ホテル。今日は時間がなくてそこまでお客様をお連れ出来なかったので、別の時に取った写真です。

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オールド・イン(Old Inn, Crawfordsburn, Co. Down)。茅葺き屋根の部分は1600年代の歴史的な建物

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レストランにはルイスの名が付けられています

『ナルニア国物語』は、私が子供時代に大好きだった文学作品のひとつです。その作者が生まれ育った島に将来住むことになるとは思いもよらず、当時は衣装ダンスのマジックにとてもとても憧れていました。
こうしてあらためてゆかりの地めぐりをしてみると、ルイスはナルニアを創作しながら、自分の幼少時代を追体験していたのだと思えてなりません。
久しぶりにもう一度、ナルニアを読み返してみたくなりました。


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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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