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アイリッシュ・ウィスキーの異端児、クーリー蒸留所

ここ数日、ウィスキー関連のビジネス視察のお客様をご案内させていただいていました。
今日は北アイルランドとの国境近くにあるクーリー蒸留所(Cooley Distillery, Co. Louth)へ。キルベッガン・ウィスキー(Kilbeggan Whiskey)などを製造している蒸留所ですが、一般公開していませんから、こういう機会でもない限り見ることが出来ません。貴重な経験をさせていただきました。

クーリー蒸留所は1970代まではジャガイモを蒸留する工場で、地元の人からは「アルコール工場(Alcohol Factory)」と呼ばれていたそうです。ここで作られるジャガイモの蒸留液は「プチーン」と呼ばれる蒸留酒として飲料される他、消毒液として病院で使用されたり、もっと古い時代は燃料として使われたと聞いて驚き。なんと食べるだけなく、ジャガイモをエネルギーとして使っていたんですね。
ジャガイモの蒸留液はガソリンの替わりになり、乾燥させると石炭の替わりにもなると聞いたことがあります。20世紀初頭、トラクターなどが普及していく頃の話ですから、農家では単価の安い「イモ・エネルギー」が重宝されたのでしょう。

その旧ジャガイモ蒸留所を1985年に購入してウェイスキー工場にしたのが、アメリカでアイリッシュ・ウィスキーの歴史を研究をしていたジョン・ティーリングさん。この時にはアイルランド島で稼働するウィスキー工場はミドルトン、ブッシュミルズの2か所のみになっていましたから、クーリーは100年ぶりの新ウィスキー蒸留所となったわけです。
2012年に工場は売却され、現在は日本のサントリーの小会社です。(正式にはビーム・サントリー社)
(ジョン・ティーリングさんはその後、18世紀にご先祖が創業したダブリン市内の蒸留所を再稼働させますが、それが昨年オープンしたティーリング蒸留所ですね)

クーリー蒸留所ではモルト・ウィスキー(原料が麦芽)とグレイン・ウィスキー(原料がトウモロコシ)の2種類を同じ工場内で製造しています。4~5種類の違った銘柄のウィスキーがここで作られますが、いずれも伝統的なアイリッシュ・ウィスキーの「異端児」的なものばかり。
伝統的なアイリッシュ・ウィスキーは、大麦と麦芽(モルトにした大麦)を混ぜ合わせて3回蒸留する「シングル・ポット・スティル」が主流。南部のミドルトン蒸留所はこの方法ですね。

クーリーで製造しているのは麦芽のみを使った「モルト・ウィスキー」(3回蒸留すると香りが失われるという考えから、クーリーでは蒸留は2回のみ)や、トウモロコシを原料とする「グレイン・ウィスキー」。グレイン・ウィスキーは通常アイルランドでは麦芽とブレンドしてしまうのですが、クーリーでは「シングル・グレイン・ウィスキー」といって、グレイン・オンリーのウィスキーを作っているのが大きな特徴。
伝統的なアイリッシュ・ウィスキーのスムーズさとは対照的に、バーボンみたいなエッジの効いた味わいのウィスキーで、私はなかなか好きです。

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お土産にいただいた4種のミニボトル箱詰め。「キルベッガン8年(Kilbeggan 8years)」が「シングル・グレイン・ウィスキー」。カネマラ(Connemara)」は「ピーティッド・シングル・モルト・ウィスキー」といって、スコッチのようにピート(泥炭)でいぶされた麦芽を原料とするシングル・モルト。サントリーさんが日本で販売しているのがコレです。いずれも伝統的なアイリッシュ・ウィスキー「らしからぬ」点が特徴

グレイン・ウィスキーは、コラムスティル(塔式蒸留器)という筒状の蒸留器を使って蒸留されます。アイルランドの他の蒸留所にあるのは伝統的なポットスティル(単式蒸留器、アラジンの魔法のランプみたいな形の窯)のみなので、今日クーリーの工場内で初めて目にして、感激。(工場内の写真はお見せ出来ないので残念)
これはアルコール工場時代から使用していたものなのだろうか、と疑問がわいたのですが、私の仕事は通訳なので自分が質問するわけにはいかず(自分が質問したいこと、いっぱいあった・笑)、あとで聞いてみましょう、と思っていたらそのまま聞き忘れてしまいました。

アイリッシュ・ウィスキーはここ数年「復興」ムードにあり、各地に新しい蒸留所が次々オープンしています。スコッチの台頭、20世紀初頭のアメリカの禁酒法の影響、アイルランド経済の低迷などによりすっかりダメージを受けたアイルランドのウィスキー産業ですが、近年新たな蒸留所が次々オープンし、アイリッシュ・ウィスキーの新時代がやってきた感があります。
現在アイルランド島内にロングランの蒸留所が4か所、新しい蒸留所が11か所。さらに許可申請を通ってこれから建設予定…という工場が22もあるそうですから、今後ますます特徴的なクラフト・ウィスキーがしのぎを削る時代になるでしょう。

※クーリー蒸留所は一般公開されていません。ご見学はキルベッガン蒸留所(Kilbeggan Distillery)へどうぞ。

※サントリーさんの「カネマラ」の製品紹介ページに、クーリー蒸留所&キルベッガン蒸留所についての詳しい説明と写真があります。→クーリー蒸留所と製法

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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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