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戦没者慰霊庭園とバラ園

ダブリン市内の戦没者慰霊庭園(War Memorial Gardens, Dublin8)。
ここにはバラ園があり、毎年バラの咲く時期は仕事が忙しく花の時期を逃してばかりいたのですが、今日お友達と一緒に出かけてみると、満開に咲き誇るバラの園がそこにありました!

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夢の中のひとコマかのような美しさ。一歩足を踏み入れた途端、「うわ~」と歓声をあげてしまいました

バラ園も含め、庭園全体の設計は、20世紀初頭に活躍した造園設計家、エドウィン・ラッチェンス(Sir Edwin Landseer Lutyens, 1869-1944)によるもの。イギリス人の彼はヨーロッパ各地で戦争慰霊の庭園やモニュメントを設計していますが、中でもこのダブリンの戦没者慰霊庭園は彼の傑作のひとつとして評価されています。

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噴水のある池を真ん中に配した円形のバラ園。左右対称に2か所あります

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この奥にバラ園が(これより4枚のバラ以外の写真は2013年5月撮影)

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犠牲者に捧げられた祭壇と「犠牲の十字架」。この十字架は、リフィー側を隔てて向かい側にあるフェニックス公園内のオベリスクの真向いになるよう設計されています

この庭園は、第一次世界大戦の犠牲者を慰霊する目的で造園されたもの。第一次世界大戦はアイルランドにとって政治的に難しい時代で、独立に向けて自治を求める運動がさかんに行われていた頃でした。
支配国イギリスに協力的な立場を取れば、独立に向けて有利になるかもしれない…と考え、愛国心に燃えた若者30万人がヨーロッパの戦地へ赴きました。その結果、5万人近い犠牲者を出し、独立前の混乱期にあったアイルランドにさらなる苦しみを与えたのです。

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「49400人のアイルランド人がその命を捧げました」と記されています

第一次世界大戦が終わった直後の1919年、アイルランド各地から集まった代表者100名により「大戦で犠牲になったアイルランド人を慰霊する永久的なモニュメントを作ろう」というアイデアが持ち上がり、独立前後の混乱期で経済が低迷する中にあっても、国家が優先すべき事業としてプランが取り下げられることはありませんでした。
1930年にリフィー側のほとりの60エーカーの土地が与えられ、木々を植えたり、モニュメントを建設したりと造園工事が行われ、計画から20年後の1939年に正式に開園する運びとなったのですが…。
なんと第二次世界大戦が勃発。庭園は出来上がったものの、開園はそのまま延期となってしまうのです。

アイルランドにとって第一次世界大戦にまつわるトピックは、もとの支配国であった隣国イギリスとの微妙な国際関係ゆえ、長い間社会的にタブーとされてきたことのひとつ。
支配国に協力することでアイルランド自治の回復を、と願って志願した若者たちの意思は忘れ去られ、敵国のために戦った裏切り者…と世論が変わってしまい、第一次大戦の関係者や遺族はそれを口にすることをためらい、口をつぐんできたのです。

この戦没者慰霊公園も日の目を見ぬまま荒廃していき、70年代から80年代初頭には浮浪者や路上生活者のすみかになり代わってしまいます。
1980年代半ば、その状況を一新しようと大々的な修復作業が行われ、1988年9月についに正式に開園。1919年にプランを出した当時の人々の意思が、70年近くを経て結実したのでした。

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美しいセイヨウボダイジュ(lime tree=シナノキ)の並木道。中央にある神殿風のモニュメントが素敵

美しく咲き誇るバラの花をこうして眺められるようになったのも、過去の人々の尽力によるもの。
以外と知る人の少ないこの庭園は、バラを眺め、さわやかな緑に囲まれてゆったりできる、都会の中の隠れスペースのひとつです。
今日はお天気にも恵まれて、心落ち着く午後のひとときでした。

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我が家のバラはそろそろ夏の休閑期ですが、こちらのバラの見ごろはもう少し続きそうです♪

※公園の入り口がちょっとわかりにくいかもしれません。
・公共の交通機関でヒューストン駅付近まで来て、そこから徒歩で行く場合…Con Colbert Road(ヒューストン駅を過ぎて西へ延びる国道4号線。ヒューストン駅から徒歩15分)に入り口あり。
・車で行く場合…South Circular Road (Phoenix Park end, Islandbridge)にあるサインポスト(フェニックス・パークへ向かって左側)を入り、家具屋の倉庫(?)を右に見て通り過ぎ、すぐに左折。20メートルほど直進すると右側に駐車場あり(リフィー側沿い)。
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アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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