アラン諸島の真ん中の島・イニシュマーン(Inis Meáin, Aran Islands, Co.Galway/イニシュマーン=「真ん中の島」の意)は、他の2島に挟まれて、本土からのアクセスが最も不便だった島。近年、港が建設されるまでは、手漕ぎボートでしか渡ることの出来なかった島です。
そのように隔絶された西の果てであるにもかかわらず、この島にはどこか洗練された、文化の香りとでもいうべき空気が…。そしてちょっぴり南の島のリゾート地を彷彿させるような異国情緒あふれる感じがするのは、この教会の佇まいのせいかも。

青空に映える、聖母マリア&聖ヨハネ教会(Church of Our Lady and St. John)。小さな島にある南国風の佇まいの教会…ちょっぴり天草みたい
15世紀からの古い教会が老朽化したため、1939年に新築された島の教会。廃墟となった古い教会跡が今も向かいに残っています。
祭壇や石造は、古い教会からそのまま持ってきて取り付けました。

教会入口のドアの上には中世に彫られたであろう素朴なキリスト像が

教会内部。主祭壇は19世紀に活躍した石工/彫刻家ジェイムズ・ピアース(James Pearse)の作。イースター蜂起で処刑された国民的英雄のひとり、パトリック・ピアース(Patrick Henry Pearse, 1879-1916)のお父さんです。ダブリンで活躍していた彼の作品がこんな西の果てにあるとは驚き
さらにすごいのはこの教会のステンドグラス。これまたダブリン出身の、19世紀のアイルランドを代表するアーティストであるハリー・クラーク(Harry Clarke, 1889–1931) の工房で作られた素晴らしい作品がはめこまれているのです。

祭壇の上のステンドグラス。真ん中の聖母子像が美しい!
ハリー・クラークはアールヌーボー、アールデコに影響を受けた挿絵画家/ステンドグラス作家で、アンデルセンやエドガー・アラン・ポーの挿絵で知られると同時に、アイルランド各地に素晴らしいステンドグラスの作品を残しています。
よく知られているのは、ダブリンのグラフトン通りにある紅茶専門店ビューリーズ・カフェ(Bewley's Cafe, Grafton St, Dublin2)内部のステンドグラス。その他、コーク大学内のチャペルや、バリナスロー(Ballinasloe, Co. Galway)の教会でも彼の作品を見たことがあります。
このイニシュマーンのものはクラーク本人の手によるものではなく、彼の死後、彼の意思を継いだ工房が制作したもののようですが、青やグリーンの色の美しさは、フランスのシャルトル大聖堂のステンドグラスの「青」に感銘を受け、自身の作品にも多く取り入れたクラークの影響を多分に受けたものでしょう。

きれいなエメラルドグリーン

聖人の下に描かれている石造りの建物がこの教会の前身なのでしょうか。いかにもアラン諸島らしい石造りです
石だらけのこの島でまさかのステンドグラス鑑賞。
いつ来ても信者さんらしき人を全く見かけないので、この島の人は未だに精霊信仰で、祈りは大地や海で行い、ここはステンドグラスを祀るための建物なのかも…なんてことを思ってしまったりしたのでした(笑)。
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