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2011年度・緊縮財政案が発表されて…

アイルランドでは昨日、2011年度の予算案が発表され、TVのニュース、新聞各紙は今その話題でもちきりです。

先日、日本でもニュースが流れた通り、財政危機によりEUとIMFから金融支援を取り付けることになったアイルランド。
緊縮財政案の詳細がついに発表されたわけですが、「すべての所得層が増税と福祉手当削減で打撃を受ける(Every income group hit as Budget increases taxes and cuts benefits)」…というのが、本日のアイリッシュ・タイムズ紙(The Irish Tiems)の見出しでした。

budget2011paper
財務大臣ブライアン・レ二ハン(Brian Lenihan)。きっとあまり寝てないんでしょうね、TVで見てたらなんだか顔色が青ざめていました…

細かに打ち出された新案のうち、さかんに論じられているものは以下の項目あたりでしょうか。

・所得税率はこれまで通り20%と41%だが、所得の線引きが10%低くなる(例:単身者・未亡人は36400ユーロ以上で41%だったのが、32800ユーロからになる)。所得税控除も10%減額

・児童手当の削減。1人目&2人目は月額10ユーロ減(150→140ユーロ)、3人目は20ユーロ減(187→167ユーロ)、4人目以降は10ユーロ減(188→177ユーロ)

・国民年金は今年度は据え置き。公的年金は1万2000ユーロ以上は平均4%減

・2009年より導入された緊急徴収税(所得税と健康保険に課税)を廃止し、代わりに'Universal Social Charge'(均一社会税?)なるものを導入。7%位らしい…

・ティーショック(首相)は1万4000ユーロ、大臣は1万ユーロの減給。(よってティーショックの給与は21万4000ユーロとなるのですが、それでも英国首相より多いのです…!)

・公務員の年収は25万ユーロを上限とする。(と言っても、現在それ以上もらっている人に関しては、契約が切れるまでは減給は難しいらしい)

・次期大統領の年収も25万ユーロ。現マッカリース大統領は、自発的に25万ユーロへの減給を申し出たそうです

・新規公務員は10%の減給

・12.5%という低い法人税は、そのまま据え置き

・最低賃金を8.65ユーロから7.65ユーロに減額

・ガソリンはリッター当たり4セント値上げ。ディーゼルは2セント値上げ

・旅行税(航空運賃に上乗せされる)は2011年3月より、10ユーロから3ユーロに引き下げ(減ってしまった観光客を呼び戻すため)

・全部で25種類の福祉手当を廃止、または減額

…などなど。私の理解が追い付いていない部分もまだまだありますが、こんなところでしょうか。
(昨日のIrishtimes.comのこちらのページを主に参考にしました)

なんでもこの案が施行された場合、平均的家庭(子供3人の単一収入、年収7万5000ユーロの場合)で月額300ユーロのロスになる計算だとか。
私も自分の場合を早速計算してみましたが、所得税控除の減額がきついですね…(涙)。

増税もさることながら、今まであった手当がなくなったり、減額されるのは痛いですよね。手当そのものの是非はさておき、あったものがなくなる…というのは大変です。
子供や学校関連では、学校の登録費、僻地のスクールバス料金の値上げなども項目に掲げられており、お子さんを抱える家庭にはショッキング。
失業中の求職手当も減額されるし、家賃手当もむこう8年間で段階的に廃止されるそうですし…。

不動産を購入する場合も、これまで初めて買う場合は免税だったのですが、これからは一律1%の印紙税が導入されます。(100万ユーロを超える物件は、2%)

この予算案は年明けまでかけて徐々に国会で審議されるのですが、ガソリン代の値上げなどは昨日トップバッターで可決され、本日より早速、施行されています。

昨日は週に一度のサーファー仲間とのトレーニングの日だったのですが、予算案の発表のためか、体育館が早じまいしてしまい、中止。(市営の体育館なので)
代わりに、国会中継を自宅でずっと見ていました。
で、すごかったのが、野党第一党フィナゲールの経済担当スポークスマン、マイケル・ヌーナン(Michael Noonan) 議員。

michaelnoonabudget
写真はこちらから

この人は今、スターですね。今日の新聞でも「scene-steaing(舞台を盗むくらいの大活躍)」と形容されたくらい。

議会後のインタビューでは「議会はEUのあやつり人形だ」と言い放ったり、議会ではマイケル・コリンズ(Michael Collins)の「Give us the future…」の有名な演説を引用して発言を終了。これには私も、なんだか心揺さぶられました。
(「Give us the future、we have had enough of the past. Give us back out country to live in, to grow in, to love.」=「我々に未来を。過去はもうたくさんだ。我々に国を返してくれ。暮らし、育ち、愛することの出来る国を」←フィナ・ゲール党はアイルランド独立運動&内戦の時のコリンズ派を基礎としています)

さらに児童手当の削減に関して、3人目の子供だけが20ユーロ減となることについて、こんな発言で議場をわかせた場面も。

「Minister what have you got against third children? The fourth child won’t be cut, the fifth child won’t be cut, the 16th child won’t be cut…did some third child beat you up coming home from school as a young fella?」
(=大臣、3人目の子供に恨みでもあるんですか?4人目は(10ユーロ以上)カットされず、5人目もカットされず、16人目もカットされず。小さい時に、3人目の子供に学校帰りに殴られでもしたんですか?)

…他にも数々の「ヌーナン語録」が。これからしばらく、彼の言動は見逃せません。

この予算案についてのアイルランド人の反応ですが、国会議事堂前でデモが起こったりもしていますが、多くの人々は不満に思いながらも仕方ない…とどこか受け入れている感じ。
ケルティック・タイガー景気で誰もが忘れかけていましたが、思えばアイルランドというのは、貧しい時代が長かった国。打たれ強いというか、我慢強いというか、とあきらめが早いというか。文句を言っても始まらない、「これも人生」と物事を自然に受け入れる、そんな態度の人が多いように思います。

何事もなかったかのように淡々と日々の仕事をこなすか、この予算案が施行されたら家計への打撃がいくらになるのか…と現実的に計算しながらも、クリスマスも間近、今は楽しんで、先のことは決まってから考えましょう~ととりあえず深刻にならないようにしているか。
なんだか卓越したような、楽観的な態度の人が多いかも。国民性ですね。

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コメント

kimiko

詳細なレポート、身を乗り出して読みました。
いずこも同じ財政問題ですが、公務員給与が意外に高い。
平均額は日本より高いんじゃないでしょうか。
税率も20の次が41とは、大雑把かつ高い。(泣・笑)

おっしゃるとおりアイリッシュはがまん強いというか、
耐えることができてしまう人たちに思えます。
インタビューで「アメリカでも稼ぎに行かないと」と言ってる学生さんがいましたが、学費値上げ反対デモで皇太子の車のガラスまで割ってしまったイギリスの若者とはかなり違う?

苦闘の歴史が長いけれど、音楽も、文学も、ギネスもある。やっぱり素敵な場所です、アイルランド。

K(アイルランド回想者)

難局ですね
かなり大きな案がポンポン出てて、緊迫感がありますね…

読んでいて驚いたのですが、所得税は20%と41%だけなのですか?
低所得者は10%台とか、首相みたいな高所得者は50%超とか、もっと区分を増やしてもいい気がしますが…

ところで全然関係のない話で恐縮なのですが、『なぜ人を殺してはいけないのですか』の著者のヒュー・ブラウンさんが来週、地元に来て講演されます。わたしも彼の本を読んで感銘を受けたひとりなので、楽しみです。

naokoguide

kimikoさん
アイルランドでも実は、学生のデモ、あったんですよ。やっぱり若者はいずこも同じで、最後は暴動に発展してしまいました。
が、国が小さいので、規模も小さいのかもしれませんね。

予算案については、やはり低所得の人ほど打撃が大きく、高所得の人には甘いような気がします。最低賃金の値下げに関しても、反発が多いです。

Kさん
ヒュー・ブラウンさんの講演!楽しみですね。
昨年だったと思いますが、ダブリンでお会いしました。もしもお話しされる機会があれば、くれぐれもよろしくお伝えください!
非公開コメント

naokoguide

アイルランド公認ナショナル・ツアーガイドの山下直子です。2000年よりアイルランド在住。趣味はサーフィン、アイススケート、バラ栽培、ホロスコープ読み、子供の頃からのライフワーク『赤毛のアン』研究。長野県上田市出身。

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